夢見る鼻血
PINT9
「カラメルです。お手伝いの経験はあるので多少はできますっ。よろしくお願いしますっ」
深々とお辞儀をされて、名刺を渡された。
「初期メンバーの方に会えるなんて光栄です」
「そんな小学生のときの話でたいしたことないんだよ。なにしろ、初めての発表会で風邪引いて出れなかったんだから。一度もステージに立ってないのに初期メンバー扱いされるのほんと申し訳なくて」
ありがたいんだけれどね、と付け加えた。
「カラメルさんがいなかったら、マスタアドはできてなかったんじゃないですか」
「そういうことにしておこう」
カラメルさんは物腰が柔らかく、言葉も接客も丁寧だ。
「俺サムちゃんに刺激を受けたんだ」
「あたしにそんなのないですよ」
「あの注意喚起シャツに、スムージーって名前つけて商品化したこと」
あたしの鼻血付きのシャツは、店内に飾られていた。
「よく言われたんですよ、販売してほしいって」
「まさかカラフルにするとは思わないから。うちでは初めて。ユガの衣装を白って決めたら、いつのまにかファンが真っ黒になっちゃったんだよ。たぶん目立たせようとしてなんだと思うけど。それでいいと思ってた。だけど、サムちゃんがカラフルにしたいって言い出したって聞いてさ」
初めてファンたちに遭遇したとき、少し怖い感じがしたからそう考えただけだ。それに可愛い色が好きだし。
「どうせ、あいつは色の認識ができないからとも思って」
「色の認識ですか?」
「ユガは青系以外、はっきり見えないらしい。縁取られた景色の中に青が見えるんだって。昆虫なのかも。あ、ユガのガ、ってそういうこと?」
そう言ってひとりでツボに入っているカラメルさんだった。
「夢見の提灯が道しるべみたいな感じですかね」
「ユガ虫が見ている景色か。そうかもね。この町を再構築したの、ユガだからね。すずめさんにアドバイス受けたって言ってたけど、あのひと、そこらへんおかしいんだよね。猫と話すわ、烏と通じるわ、なにもないところに向かって話すときもある。まあ、温かい目で見守ってあげればいいと思う」
「たとえば花とかも通じてたりするのかな」
「花? うん、今から花粉運ぶねーとか言ってそう」
その日はカラメルさんがいるとわかって、カラメルファンが訪れた。
次の日も、カラメルファンの影響なのか忙しかった。どれだけレアなのだろう。
仕事が終わり、カラメルさんが「ユガから頼まれた」と言って出したのは、ハンカチだった。
薄青色のハンカチ。SUMIREの刺繍とすみれの花。『MAYS_SAUCE』タグがある。
「急に頼まれて探したけれどどこにも売ってなかったから、俺製で申し訳ないけれど」
「嬉しいです、ありがとうございます」
清掃をしながら気付いた。
スムージーの元となった、あたしの鼻血付きシャツ。その胸ポケットに、ユガさんを手当したときのハンカチがポケットチーフのように挿してあった。ユガさんの血が付いている。
それと潰れたink缶がひとつ。
ハンカチのすみれは青だった。
どうしてユガさんがベイビーブルーのすみれを選んだのか知りたかった。