夢見る鼻血 
PINT10
「このへんが とゅん。てするんだ」
 店長は胸を押さえて訴えた。

乙女をとめ、病ですかね」
「このまま……あのお方と会えないまま生きていくなんて」

「姫さま」

「……また、あのお日様を、食べにまいりました」

「おしず」

 すっかり少女漫画のヒロインになりきっている。


「ねえ、サムどの。ふたりはどうなっちゃうの」
「新刊、出しておきますね」
 お大事に。
 休日の夢見町と店長はとても晴れやかで賑やかだった。夕方には、


り、


り、
 と「」が落ちてきて、提灯を塗り、相合傘のふたりの影を揺らした。
 



「出禁だよ、出禁」
「なんもしてないでしょ、俺」
「だめ、何人泣かせたと思ってるんだ」
「手出してないし、勝手に泣いてんだよ?」
「おいおい、おめえさん、どこの浮世離れだよ」
「浮世?」
「フォローができてないってことだろ」
「知らんし」
「だめ、俺よりかっこいいやつはご容赦願え。ーれーれ」
 江戸っ子店長がなんだか騒がしい。
「今日は用事があってきたの。サムいるでしょ」
 あたし?
「だめだめ、絶対だめ。うちの大事なスタッフなんだから」
 店長の方に顔を出すと、誰かがあたしのほうに向かってきた。
「だめだって、レイ!」
 店長が呼び止める。

 
 レイ? 


 どれだけ夢を見てきただろう。
 どれだけ会いたいと願ってきただろう。
 目の前の「レイ」は、にこっと笑って、あたしの名を呼んだ。
「やっと会えたね」
「本当に、レイなの」
「そうだよ、オルゴール渡したでしょ」
「ちょっと待った。どういうこと?」
 店長が驚いている。レイから説明を聞いた店長は、胸のあたりをさすって、

「とゅん。」

 と嘆いた。
「サム、今日はもう上がって。ふたりでどこか行ってきてよ」
「もう少しですし」
「俺がいない一週間、頑張ってくれたんだし、いいっていいって。ああ、もうさっさと帰ぇれ」



 傘を開くと、夢見の景色が滲んだ。
 レイがあたしの手元から柄を取り上げる。濡れた提灯が今度はあたしに影を差す。あたしとレイと──。
 すずめさん。
 二張通りの角に、すずめさんがいた。真白だから目立つ。ちょこんとすわり、並べた前足にシッポの先を置いている。明らかにあたしを見ているみたい。
 すずめさんは、どんな恋をしましたか。
 こんなしっとりとした淡い灯りになにを想うのだろう。あたしはそっと一礼を綾む。