夢見る鼻血
PINT11
「どうしてわかったの?」
「サム、お客さんと写真撮るでしょ、それが流れてきて、ひと目でわかったよ。すぐに会いに来たかったけれど、俺、仕事で海外に行ってて帰ってきたばかりなんだよね」
「海外に行く仕事って、なにをしているの?」
「親がアンティーク品を扱う会社をしていて、それを手伝ってる。本分は学生」
「レイは、努力家さんだねぇ」
「どうだろ。与えられた人生って感じだよ。サムのほうは、仕事どう?」
「あたしは、自分のやりたいことを見つけたところ」
「いいね。シズクっちと一緒に仕事するの楽しそう」
レイは傘をあたしのほうに寄せた。濡れないように気を遣ってくれているのだと思う。
すれ違う女性が、ちら、とレイを見ていく。それは、あ“ちら”、こ“ちら”から感じていた。整った容姿に加え、華がある。店長が言っていた「出禁」の意味が分かる気がする。
「日本に帰ってくると、必ず行く和食店があるんだけれど、付き合ってくれない?」
軽い気持ちで、いいよ、とは言った。言ったけれど、想像以上の格式高い門構えを目の前にして足がすくんでいた。
「あたし場違いじゃない?」
「俺だって軽装だよ。ここは大丈夫」
案内されるまま、一室に入る。和モダン造りの部屋。天井から吊り下げられた角型の和紙ライトが、暖かみをもってあたしを迎える。壁にはグラフィックアートが丸い額の中に収まり整然と並んでいた。
木製のテーブルは波目が広がり、ゆったりとした感情が押し寄せて、あたしの緊張を凪いでいく。
びいどろの器に鎮座した苔玉は島のようでもあり、陸に上がったマリモのようでもある。
陸マリモからなにかの芽が光りに向かって伸びていた。
雨は止むことなく蝶の羽を濡らし続けた。鈍る光彩は、雨粒のひとつひとつに赤を挿して、花のように咲いた。閉じ込められた花は夜の静けさに沈んでいく。
レイとの再会を、なにより喜んだのがミナだった。
話を聞いて、「王子様って本当にいるんだ。お祝いしなくちゃ」と目を輝かせた。ミナのほうがよっぽどメルヘンメーカーの称号にふさわしい。
「思ったよりサム、落ち着いてるね。もっとふわふわしているかと」
「ふわふわしてるよ。なんだか夢の中で夢を見ているみたい」
そう報告しながら、心にある違和を探った。
レイが現れて、もちろん嬉しかった。まだ実感がわかないのだけなのかもしれない。
だけど、重ならなかった。
幼いころのレイを想うと、
……ユガさんがいる。
夢見を出る前、一度振り返った。
雨に濡れたユガさんの後ろ姿と、追いかけるすずめさんがいた。
遠い。
手を伸ばしても届かない。ステージに立つ「ユガ」は、眩しくて、歌も、その冷たさも、あたしを狂わせた。いくら近い存在になったとはいえ、やはり、遠い存在なのだと思う。
あのころのレイのように。