夢見る鼻血
PINT12
それはオルゴール音のように儚く。
もう鳴ることはない。
噂が広まるのは早い。
レイはよくお店にきた。何度か食事に行ったり、遊びに行ったり。知り合いやお客さんからも付き合ってるの、とよく聞かれた。そのたびに「お友達です」と答えていた。事実を伝えているだけだ。
「レイのこと振ったんだって? せっかくの運命的な出会いなのに」
店長が聞いてきた。
昨夜の話だ。
仄く青い提灯の下。レイの想いに触れる。生まれて初めて受けた言葉に心が逸った。ずっと待ち焦がれてきたひとだ。
だけど現実は慎重になる。
「お互いのことをまだよく知らないし、今はようやくやりたいことを見つけたところだから仕事に集中したい」
あたしとレイの影が幽暗に忍ぶ。
レイは、いつもの笑顔で、
「ちょっと早かったかな。これから知っていこうよ。また連絡するね」
と、いつもの春風のような爽やかさであたしを見送った。
いくらなんでも情報が早すぎる。動揺しながらも冷静を装って、店長がよく送ってくる顔文字を顔に貼り付けた。
「なんですか(・´з`・)」
「猫の便りで聞いた」
猫。
(=^‥^)?
「……えっ! すずめさん?」
顔文字記号が一瞬で崩れ去る。さらに店長は追い打ちをかけてくる、
「ってユガが言ってた。」
この町は、やはりすずめさんが監視しているのだ。そしてユガさんが掌握している。
なによ。
それはそうか。わかってた、わかってましたよ。わかっていたけれど、なぜだかショック。なぜだかユガさんには知られたくなかった。そんなことは無理だけど。あたしはもう隠せもしない顔文字を事務的に貼り付けるのみ。
「運命かもしれないけれど、まだ、知り合ったばかりですよ。それに今は恋愛より仕事に向き合いたいんです」
とあたしは閑文字記述を読み上げる。文字の端がひらひらと捲れている。
「そんなこと言ってると婚期遅れるぞ」
「婚期って…まだあたし十九歳です」
「そんなこと言ってると婚期遅れるぞ」
「呪いのように唱えないでください」
「でもあいついいやつらしいよ」
「らしいって、なんですか」
「ってユガが言ってた。俺は、レイは女関係にだらしないやつだと思ってたわけ。実際、うちの店にくる女の子も何人か泣いてるのを知ってるし。そしたらさ、お前はわかってない、って」
「ユガさんはなんて」
「あいつは顔が良すぎるから利用されてきた。女も顔だけでしか判断してこない。だから自分も利用する、そんな考えになっていた。あいつは誰も信じていないよ。でも見極める目は本物だからな。だって」
店長はクールさを纏わせて話をしている。兄弟だけれど、似てはいない。
「だからなんですかね」
「なにが」
「なんか寂しそうなんです」
レイは明るくていつも笑顔で、優しい。待ち望んでいたひとは、本当に王子様だった。
風に弄ばれて、花の匂いがあえかに夢を見る。