気怠い偽色2
必要最低限だけのものが詰められている。
余計な感情など、そこには不必要なのかもしれない。
前に一度、中を見せてもらったことがある。
小ぶりなバッグを、サキはひっくり返した。本人曰く「絶賛売り出し中」らしい。ビデオにも出演していて、仕事に対する意識も高く、当然人気があった。
僕は、そんなプロ仕様のバッグに興味が湧いたのだった。
ベッドの上には、手品のように様々なものがあふれ出た。
「化粧品でしょう。ゴムでしょ、ゼリーでしょ、カイメン、名刺、ケータイ」
ハスキーな声で、ひとつひとつ読み上げられる必需品たち。
「このカイメンが生理用品の変わりになるの?」
僕の手のひらに、黄身色たまご型のスポンジが産まれた。小さな穴が無数に空いている。存在は知ってはいたけれどこんなにまじまじ見たことはない。
「硬い」
僕の感想にサキは笑う。
「水で濡らすと柔らかくなるんだよ」
「取れなくならないの?」
「取れるよ。取るなって言っても取るやつがいるくらいだもん」
財布は持ち歩かないという。バッグの内ポケットに万札数枚が折られて入っていた。
「ほかの子は事務所に財布を預けるんだけど、私、疑い深いから」
そう言ってマスカラやカイメンを拾い、バッグの中に放り込む。
「たちの悪い客もいてさ、シャワー中にお金盗んだりするんだ。私も新人のころ一回やられてる。だからシャワールームに持っていけるようなのがいいの。濡れても平気なように、こういうやつ」
バッグは持ち上げられて、マニキュアの塗られた爪で指差されていた。
ブレスレットを仕舞い、エミはまっすぐ僕を見た。吸い込まれそうな視線から逸れてタバコを消した。彼女の視線も僕の指先に向かったような気がした。
料金を渡すと、彼女はバッグを持ってバスルームに入った。シャワー音が部屋の中に広がる。僕はタオルを身体から取り去り、ベッドの中へと潜る。照明器具を薄暗くセットし、有線のチャンネルをいたずらに合わせる。ヒットソング、さざ波の音、列車の音、歪む旋律……指先がブルースを選曲したころ、エミがそばにきた。
薄暗い明かりが彼女の左肩に彫られた十字架を照らしていた。
いつのまにかバックミュージックはハードなロックに変わり、ヴォーカルのシャウトがスピーカーを響かせていた。僕はベッドから出て下着をはき、シャツを着込んでソファーに腰を落ち着けた。タバコを吸い、ゆっくりと煙を吐いた。
電話が鳴り、身支度を整えたエミが受け答えをしている。
少し気になることがあった。エミの腕の内側は切り傷跡だらけで、右手首には縫い跡があり、明らかにためらい傷だと分かる。
絶やさぬ笑顔に影があると知りながら、エミのことが気になっていた。彼女は風俗嬢という色に染まっていなかったから。