黒トかげ3
「俺も……」
 ついにはレイまで話しだした。普段あまり自分のことを話そうとはしないから、興味津々になる。
「ガイジンとかヨムノクニとか言われるの、俺はどうでもいいんだけどさ。変な英語で話しかけてくるのが何を言ってるのかわからない。それももう慣れたけど。その前に、母国語は英語じゃないんだよって言いたい。俺、ちゃんと日本語で話してるだろ。話してると……思う。日本語で話しかければいいんだよ。ネガとカナはまともに話しかけてくれた。子ども扱いだったけど。まあ、子どもだから仕方ないけどな。大人の対応してくれたのは、ケイが初めて」
 僕とネガは苦笑いした。ネガが「レイの蛇口が壊れた」と動揺している。
「それは、レイがかっこよすぎて、まぶしいんや思う。みんな友達になりたいんやろなぁ」
 計太はそう言って、酒を飲んだ。希少価値のある酒が、計太の機嫌を撫でていく。 
 ネガは、いつもの注文の品を袋に入れながら、計太に、
「レイはその人の目を見ると、なんでも感じとれる体質だから、怖かったら先に断っておいたほうがいいぞ。怖かったらな」
 と挑発した。レイの能力といっていいのか不思議な力は、信じられないけれど本当だった。だけど、最近ではその力を隠しているようだった。
「俺は将来、世界のミュージシャンになってるからさ」
 計太はレイに告げた。すぐにレイは答える。
「それは自分の夢ではないだろ。他人の夢なんて背負う必要ない」
 酒を飲む計太の手が止まり、「降参」と笑った。そして、「レイは、自分の未来を知っているのか?」と疑問を投げつけた。 
「確かに」ネガが手を止めてレイを見る。確かに、自分の未来がわかったとしたら、自分の死に様がわかるということにも繋がる。僕は不安げにレイを見つめる。
「見えないよ」レイは首を振った。「まるで、希望がないみたいに、なにも見えない」
 急に子どものようなことを言い出すので、困惑した。といっても子どもに違いはないのだけれど。レイはいつも冷静で子どもらしくない子どもなのだ。
 計太は答える。
「それが俺らなんだよ。なにも見えない。でも希望はあるからな。それに見えなくていいよ、俺は」
「ここになんか種があるとする。絶望の」
 レイは胸のあたりに拳を作る。計太が頷く。逆カウンセリングみたくなってきて、僕は今まで、レイの不思議な力を羨ましいと感じていたけれど、考えてみれば、本人にとってみれば辛いことなのかもしれない。
「それが行き場のない」少しの間があって、「わかる?」と、レイは光を求めた。
 少しの間を拭うように、計太は言葉を照らす。
「なりたいと思うことを描いて、そこに向かって芽が伸びていくことを想像してみればいいんじゃない」
「なりたいと思うこと?」
 レイの目に、計太が映る。なにかを感じ取っているようでもあったし、なにかを考えているようでもあった。そのまま真っすぐ視線を外さずに、
「ケイみたいなの、かっこいいかもな」
 と、ポツリと言った。
「そうか。待ってるで。いつか一緒に音楽やろな」
 計太がそう言うと、レイは笑った。それはとても子どもらしくて可愛らしく、本当のレイを垣間見えたような気がして嬉しかった。なんだか計太のほうが能力者のようで、僕のなかでまた、計太の存在が大きくなる。
 可愛いと思ったのもつかの間、
「俺がロックミュージシャンになったら、そのころ、ケイはじじいだな」
 と、レイは悪態をついた。
「誰や、こんな言葉覚えさせたん」
 僕は、予想通りの答えを計太に用意した。
「ネガだよ。言葉と歌はネガが教えたんだ」
 ネガとレイは音楽に合わせて歌っている。「手遅れだよ、もう」ネガがそう言い、レイは唇の端を少し上げて笑む。もう無邪気で可愛らしいレイはいなかった。