まだ未ぬ時刻(とき)1
 ストッキング占い師の予言は現実となって鳴る。
 僕の名を呼ぶ声の主はココだった。携帯電話はいつでもココと繋がれた。お互いの時間が合えば、お昼を一緒に過ごすこともあった。それは、僕の勤め先が渋谷にあり、ココと近い距離にいる、というのが大きいだろう。
 代わるようにして、今度は計太と会えていなかった。STORMは、主要都市を巡るコンサートのツアー中だ。カナがいるから安心して仕事に行ける、なんて言っていたけれど、計太がいうほどココの状態はひどくない気がしていた。ココはいつでも明るくて、冗談ばっかり言っては笑う。
 まだ、深刻さに近づいていないだけなのかもしれない。


「ねえ、聞い……る?」
 ザーーーーっという雑音が、ココの声を隠す。僕は立ち止まり、通話に集中した。


 電波が悪いみたい
 僕の声はどこにも吸収されずに虚しく散っていく。自分の影を見つめた。僕の足に踏まれた墨色の影は、どこにも行けなくて、仕方なく僕の下にとどまっているようだ。電話を切ると、街の喧騒が一気に押し寄せた。
 ふと気付くと、目の前に本屋があった。仕事柄、何度も通る道だ。この場所に本屋があることは知っていたけれど、特に気にしたことはない。軒先には、Sound_1eamリームを知らせるポスターが貼られている。目立つフォントと色で大きく書かれた文字は、おなじみのものだ。コンテスト出場者の中から、バンドが数組選ばれてコラージュされる。コンベアも選ばれたことがあり、額に入れられて家宝扱いで店に飾ってある。この時期になると、お店に集まるメンバーたちは今年は誰が切り取られるのかと考察していた。その話題には入れなかったし、ポスターを見かけても、なにも思わず通り過ぎてきた。
 だが、今回は予想を大きく裏切ったといっていいだろう。ひと目見ただけでその違いは歴然だった。
 引き寄せられるようにポスターの前に立っていた。
 選ばれたのはたったひとり。バンドの選手権大会だというのに、楽器もなにも持ってはいない。ただ、こぼれるような笑みがあるだけだ。


 ユキのいた夏が また始まる────


 僕はそのキャッチコピーを反復した。手の中で携帯電話が振動している。
 現実をぎゅっと握りしめた。




「おかえり」
 と言いながらネガが時計を二度見している。無理もない。それほど太陽が沈む前に僕が帰るのは珍しいのだろう。
 あのあとココから電話がきた。今日は忙しくなりそう、とのことだった。僕もだよ。と言ってはみたものの、予定はなくて、シークに行く気分にもなれず、帰路についたのだった。
「今月のバッツに結構ケイが載ってたよ。見たら?」
 レジカウンターには、定期的に届く雑誌が積まれていて、一番上に音楽雑誌『BATu×BATuバツバツ』があり、今年開催される1eamの特集をしていた。表紙にはユキがいて、さきほどのポスターと同じように笑顔を見せている。


『ユキが最期に見つめたStill“未”Light
   
            …ima witness Us.』


 ユキの見た光りは、確かに存在した。
 僕は今、目の前の光りに、なにを知るのだろう。