晴れのち濁り3
白シャツの襟元にリボン風のフラップ、タイトな紺色のスカート。事務員のような出で立ちの彼女の持つトレイの上には、ショートケーキと麦茶がふたつずつ並んでいる。
「なにをしているの? ココ」
お見舞い、とココは言い、テーブルにケーキを並べた。
昼食のあと、ソファーに体を預けたところまでは覚えている。
重たい目を擦りながら、夢と現実の曖昧な境界線をまたいでテーブルの前に座る。健康だけがとりえの僕が、風邪で高熱を出して、会社を四日も休んでしまっていた。
僕の向かいに座ったココは、
「具合はどうかな」
と問診する。
「もう平気。明日からは仕事も行くし、ココも呼べる」
「また風邪引きたいの?」
NGの診察結果を突き付けて、ココは続けた。
「計太が“城石酒店”の電話番号を調べて電話したら、風邪で会社を休んでるって知って。そうしたら、お見舞いに行くって張り切っちゃって」
「え、計太もいるの?」
「うん」
「計太は酒にありつきたいだけだろ」
「かもしれない」
とココが笑う。
「でも本当に心配してたよ」
グラスをつかみ、カラついた喉に流し込む。奇妙な味がして一瞬グラスを見つめた。麦茶と思っていた飲み物の正体は紅茶 だったからだ。
生クリームたっぷりの生地を口にすると、見た目通りの甘さが喉元を通り越していった。ココは、真っ先に苺にありついている。
「計太、お店に入ってすぐ『コンベア!!』って叫んだの。それで私も思い出した。コンクリートベアだよね」
ネガのやっていたバンドの名前だ。
「計太、1eam でコンベアに投票してたんだって。それで意気投合したの」
喜びに満ちあふれたネガが、計太を抱きしめる様子をたやすくイメージできる。ネガはすぐにハグをしたがるという性質を備えている。身長が193センチあり、とにかく大きい。バンドメンバー全員が185センチを超えている。まるで壁が演奏しているようで、見た目のインパクトはどのバンドよりも存在感があったし、特に男性に人気があった。
「調子にのって、またバンドはじめちゃうかも」
ようやく両親が安心したところだ。とばっちりがこない分、僕が安心しているのかもしれない。
「またやればいいじゃない」
ひとごとのようにココは言う。
僕は紅茶を飲み干して、
「ココは、もうバンドをやらないの?」
と聞いた。ココのかたむけたグラスの中で、氷が小さく鳴いた。
「音楽はもうやらない」
「どうして?」
「無駄、じゃない?」
「無駄?」
ココはグラスを見つめながら、「この氷みたいに、溶けて無くなっていく」とつぶやいた。意味がわからず僕は、氷の行方を見つめた。
「バンドをしているときのココ、楽しそうだったよ」
そう告げると、ココはわずかに顔をしかめた。
「あのころは、頭の中からっぽで、ただ楽しくて。ねえ、カナ。……知ることは……怖いことだよ」
ココを傷つけるものがなんなのか、聞くことはできなかった。僕も怖いのかもしれない。グラスの中の液体が、氷の存在をたやすく消滅させていった。