晴れのち濁り2
 シャワーを浴びたあと、店から焼酎をくすねて部屋に戻り、テレビの電源を押す。調子が悪いのか画面が正常に映らない。チャンネルを変えても、雑音だけが狭い部屋の中を行き来している。テレビデオをなだめながら、その側面を二、三度叩くと、朝の番組が爽やかにニュースを伝えた。早速ビデオテープを飲み込ませる。





Czy-G♡
ファン投票1位!!
G♡! G♡!
キュートなG♡人組女の子バンド!!

 クレイジーゴーと読むらしい。画面にハートが散りばめられている。
 やはり言われなければ気付かない。ギターを弾くココは始終笑顔で、心底楽しんでいるのが伝わる。こんなに楽しそうな笑顔のココを僕は知らない。今とはなにか違う気がする。腕の傷を見て、僕が勝手に思い込んでいるだけなのかもしれない。
 次の年のビデオを観る。早送りをしながら、計太を探した。





Still Us
関西地区代表、スティラス登場!
グランプリ候補と名高い高校生バンド!

 画面を流れるテロップに沿い、僕の目も泳いでいく。計太が京都出身であることに驚く。
冗談を交えながら、地元の言葉で意気込みを話している。
 ユキと呼ばれたボーカルにマイクが向けられると会場から歓声が上がった。女性の悲鳴のような声も聞こえる。細いし、ひ弱そう。やたらに顔がアップされるのは気のせいだろうか。透けるような肌にサラサラの髪、茶色い瞳。間違いなく僕とは違う生き物という感じがする。あどけなさの残る顔立ち、笑うと両端の尖った犬歯が覗いた。笑顔を絶やさずに受け答えをし、計太がたまに突っ込んだり、司会者が吹き出したりして、話すたびに観客が沸いている。もうこれはアイドルだな、ひネくれた感想を持つ。
 ステージが始まると、ユキは一変した。ひ弱いどころかひ強い。圧倒的な迫力で僕を打ちのめした。自分が思う以上にユキに魅入られていくのがわかった。でもそれを認めたくはなくて、「なんかひきょうだな……」そう思うことにした。ギターを弾く腕に十字架が見える。シャツの袖で半分隠れてはいるが、間違いなくココと同じものだろう。





 布団に潜ると、時折、下の階から子どもたちの声が聞こえた。休日の午前中はカナおじさんの部屋には入らない、きせき託児所の決まりだ。
 静かな部屋の中、雨音が僕を打つ。僕はひっそりと息をく。なぜだかユキの笑顔が鬱陶しく、僕に蓋をする。呼吸が苦しいのだ。