黒トかげ1
 丁字路を塞ぐ看板には、目立つ文字で

  波契商店街ハチギ
  HACHIGI SHOPPING ST.

 と書かれ、アメリカンコミック調に道案内をしている。キャラクターのクマが抱える酒瓶には、

  城石酒店
  KISEKI SAKE

 の文字がラベリングされている。


 信号は再び警告色を宿し、大型のオートバイが重底な音を響かせて停止した。外国製の二輪や車が、こうして右ウインカーを点滅させているのは見慣れた光景だ。
 店に入り、扉を後ろ手に閉めるころ、オートバイが弾けるような音を響かせ駆け出すのを聞いた。それはすぐに店内の音楽に飲み込まれ、僕の意識から消えようとしていたが、穏やかな坂道を走り抜けた先で、エンジンを停止させているのは容易に想像がついた。この辺りとは別世界の区域エリアだ。坂の途中に厳重に管理された建物があり、全貌は生い茂った木々で見ることはできないが、血液関係の研究施設だといわれている。その町は、施設の関係者たちで成り立っていた。



 レイが商店街に姿を現すようになったのは、半年ほど前のことだった。
 黒塗りの外車から降り、ヒール音を響かせて颯爽と歩くレイの母親は、かなり目立っていた。長い黒髪に計算ミスのない顔立ち。くれい色の唇は綺羅びやかに花を添える。一見近寄りがたい雰囲気をしているが、ネガとの会話を傍観していれば気さくな人というのがわかる。
 いつの日からか、レイは弟と一緒に使いにくるようになった。初めは難しい言葉があまり通じなかったのに、すぐに慣れた。頭が良いのだろう。
 明るい色の髪と瞳は、遠くからでもすぐにレイだとわかる。時々地元の子どもたちとやり合う姿を目にしていた。弟は母親似であり、見た目も日本人と変わりがない。日本語がまったく話せず、そのことがからかわれている一因のようだった。
 弟を守るようにしてレイが立つのを何度も見かけた。傷を作るたび手当てをしていたけれど、子どもの代謝というのは大人と違ってすぐに治る。そこまでひどくはないのだろう。たかだか子どものケンカだ。特にレイに絡んでいるやつの親は、どちらかというと面倒な部類に入る。というわけで僕は見ぬふりを決め込んでいた。
 ネガは、僕と違って、見過ごすことができる性分ではない。ケンカを目の当たりにして、相手を泣かせるほどのオニの形相で怒った。案の定、面倒な親が文句を言いにきたけれど、兄貴の人当たりのいい笑顔と巧みな話術にまるめこまれて引き下がっていった。
 それでも、ケンカは陰で続いているようだった。
「ネガに言ったらいい」
 僕は“弟”という立ち位置を最大限に利用した言葉を吐く。
「俺、戦闘能力上がってるから」
 レイは、僕の甘えを一掃する。
 確かに傷を作ることがなくなった。ケンカを楽しんでいる風にも見えた。甥っ子たちと一緒に遊んではいるけれど、どこか冷めていて大人びていた。そしてレイは不思議な能力を持っていた。